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探索十六日目

 ぴりぴりと体に痺れが残る。考えるまでも無く、あのクラゲの攻撃によるものだろう。自分の体が自分の思う通りに動かないというのは極めて不愉快だ。著しく欠けた我が身ではあるが、それすら制御できないのでは話にならない。
 それは事実ではあるのだが、やはり目の前に突きつけられるのは屈辱だ。包丁を握る手にも自然と力が篭った。
 世の中にはそういうのが好みの人間も居るそうだが、縛られるのも絡め取られるのも私の趣味では無い。
 共闘している無口な少年を積極的に盾にし、私はなるべく攻撃を受けないように戦闘を終えた。

 切り飛ばしたクラゲに包丁の先端を突き刺し、拾う。味わう事になった屈辱の分だけ、この瞬間は爽快でもある。
 浜辺へと歩を進め、突き刺したままのそれを海水に浸す。
 こびりついた砂を海水で洗い流し、頃合を見てそれを舌先でつつく。
 海水は飲料水には向かないが、軽い調味料にもなる。潮の香りと塩の味。

 …しかし、その後に続いたのは舌先の痺れる感覚だった。
 まだ息があったのかと少し疑ったが、結局のところどちらでも構わないと判断した。

 口の中が痺れてすぐに味は分からなくなった。しかし、その歯応えだけはしばらく楽しむことが出来た。

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探索十五日目

 狼は私に向かって「美味そうだ」と吠えた。正確には私と共に戦っていた者に対してだが。
 お屋敷を出てからしばし。そしてこの島に至ってから十と数日。捕食の対象として見られたのは久しぶりのような気がした。野に在る者としては自然な発想であり、日々の糧を狩りで得る以上当然の話のはずである。
 事情が少々違うが、狩りをし、捕食者足ろうとしている私とて同様だ。それほど変わった事だとは思わない。

 だが、しかし。
 この感覚を「久しぶり」だと私は感じた。
 小鷹、インプ、骨にゴーレム、様々なものに出会い戦ってきたが、この感覚はそのどれからも感じられなかった。私が鈍ったという可能性も考えられるが、それに関してはこの際考慮から外しておく。

 マナによって様々なモノが生きるこの島だが、食し食されるという観点、観念、気配、そういったものはどうにも希薄らしい。と、私はそう考える。
 それが体に宿るマナの影響に拠るものか、マナの存在により動き出したモノ達がそういう生態系を築き上げたのか、その辺りはまだ観察の余地があるだろう。
 願わくば、マナにより『満ち足りた』ためにそうなったのだと、そういう結果であって欲しい。それならば私の欠落も、そこから生じるこの渇望も、満たされ、報われる可能性が出てくるはずだ。


 何にせよ、狼風情に捕食されてやる義理はない。狩猟者がどちらで、獲物がどちらか。きちんと分からせてやる必要があるだろう。

 熱く、深い口付けを交わすように、私は彼の口元を噛み千切った。
 素材として使い出の多そうな牙が使い物にならなくなってしまったのが残念だが、顔にかかる飛沫と顎に残る感覚は、それを補って余りあるものだった。

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探索十四日目

 何度目かの遺跡外。力尽きて運び出された経験としてはこれが二度目だ。歓迎したくない、とても増やしたくはない数値だ。

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探索十三日目

 矢尽き、弓折れ、命は果てる。
 …とでも言うべきだろうか。ゴーレムとの再戦は以前と変わらず敗北に終わった。体躯に任せた重量級の一撃を、全く以って避けられなかったのが敗因だろうか。包丁は文字通り刃が立たず、私は取る手段もなく膝をついた。

 口惜しいと言えば口惜しい。砂を噛むような思いだと言って良い。
 しかし、いくらマナが宿っているとはいえ、サンドゴーレムは砂以外の何者でもないだろう、勝った所でこちらは文字通り砂を噛むしかないというのもまた事実だ。木の枝ならばいくらでも噛み砕いて食そうと思えるが、無機物はさすがに興味が湧かない。食べる気がしないというか、食べたいとは感じない。
 言い訳をするつもりはないが、その辺りの感覚はモチベーションに大きく響く。せめてお供がチープゴーレムでなく何か…もっと別のものなら、と思わざるを得ない。

 所詮は食せない無機物。
 しかしその程度のものに地を這わされるのは不愉快極まりない。

 次は確実に刻む。刻んだ上で細切れにして捨ててやる。

 恨み言を呟き終え、気付いた時には遺跡外へと運び出された後だった。

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探索十二日目

 砕いた骨の手応えが、今も消えずに残っている。
 生無きモノをも動かすのがマナであると分かってはいたが、骨にまで動かれるとさすがに驚く。
 普段なら生への冒涜と怒る所だが、あれはどうなのだろう。
 主体は何だ? 死した本人か、それともまた別の何かか。
 喋り口調からは何だか楽しげであるというそれだけ察することが出来た。

 …あまり深くは考えないことにしよう。
 モノの由来がどうであれ、この骨からはきっと、マナを多く含んだ上質の出汁が取れるだろう。
 私はそれで構わない。


 数日の回り道を経て、私はまたここへ戻ってきた。
 この砂浜へ。

 食べられないモノとの勝敗に拘りは無いが、負け続けるのは苛立たしい。

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